C/N栄養バランスの崩れた条件での独自のスクリーニングを実施し,新規C/N応答異常変異体cni2-D(carbon/nitrogen insensitive 2–Dominant)の単離に成功しました(図,上)。そして,この変異体の分子遺伝学的解析から,原因遺伝子として,タンパク質脱リン酸化酵素であるABI1が同定されました。
ABI1は,多様な環境ストレス応答に関わる植物ホルモン「アブシジン酸(ABA)」の受容体と直接結合し,ABAの存在量に応じて下流に広がるABAシグナル伝達系を制御する重要な因子です。ただし,興味深いことに,通常条件とC/Nストレス条件において植物体内のABA含量に大きな差は検出されませんでした。その一方で,特定のABAシグナル伝達経路の下流マーカー遺伝子の発現は,確かにC/Nにより変動し,cni2-D変異体においてC/N非感受性を示しました。つまり,C/N栄養シグナルは,既存のABA合成量に依存したABAシグナル制御系とは独立した,non-canonicalな制御系を介してABAシグナルとクロストークすること,そこにはABI1の機能が重要であることが明らかとなりました(図,下)。
最近,他の研究グループからもABAシグナル伝達系が多様な環境シグナルと直接クロストークし,植物のストレス適応に関与することが報告されています。
現在,具体的にどのようなメカニズムでABAとC/N栄養シグナルシグナルがクロストークするのか,またABI1の下流でどのシグナル伝達経路が変動しているのか包括的に明らかにしようとしています。
この研究の進展は,植物の環境シグナル統御システムの新たな一面を明らかにするものとして期待されます。