C/N栄養シグナル系のリン酸化プロテオームに関する論文がFrontiers in Plant Science 誌に発表されました。
著者:Li X, Sanagi M, Lu Y, Nomura Y, Stolze SC, Yasuda S, Saijo Y, Schulze WX, Regina F, Stitt M, Lunn JE, Nakagami H*, Sato T*, Yamaguchi J
発表雑誌:Frontiers in Plant Science 11: 377. 2020
doi: 10.3389/fpls.2020.00377.
【論文概要】
私達は,国内および海外の研究者らとの協力しながら,生命を支える複雑な細胞内システムを包括的に理解する取組みを始めています。
本研究では,細胞内のリン酸化シグナルダイナミクスを網羅的に解析し,重要な代謝物の変動や遺伝子発現解析と結びつけることで,これまで未知であった植物細胞内の栄養応答シグナル伝達ネットワークの全体像を理解することに成功しました。
具体的には,今回私達は,生物に必須の栄養素である糖(炭素, C)と窒素(N)のバランス「C/Nバランス」に着目して,この栄養バランスの乱れにより起こるストレスに応答した細胞内リン酸化ダイナミクスを網羅的に解析しました。先端的なマススペクトロメトリー装置を用いたリン酸化プロテオーム解析という手法を活用することで,細胞内のリン酸化シグナルの網羅的な検出と定量的な比較解析が可能となりました。
その結果,1,785のリン酸化ペプチドを検出し,193個のタンパク質のリン酸化レベルがC/Nバランスに応じて変化していることが分かりました。その中には,糖や窒素代謝制御に関わる代謝酵素群や輸送体,タンパク質合成(翻訳)関連因子が含まれており,加えて,転写因子やキナーゼといった多くのシグナル伝達系タンパク質が同定されました。
こうしたリン酸化プロテオーム解析結果から,C/Nシグナルの上流制御因子としてSnRK1キナーゼが重要な役割を果たすことを見出しました。
また,新規の受容体型キナーゼLMK1(Leucine-rich repeat Malectin Kinase 1と命名)を単離し,このキナーゼが細胞死制御に関与することを発見しました。
今回取得したリン酸化プロテオーム解析データは,植物栄養応答の分子機構を理解するためのプラットフォーム構築に貢献し,他の作物種も含めた様々な応用研究の基盤情報となることが期待されます。
本研究は,北海道大学,理化学研究所,Max-Planck-Institute for Plant Breeding Research(ドイツ),Max Planck Institute of Molecular Plant Physiology(ドイツ),奈良先端科学技術大学院大学,Hohenheim大学(ドイツ)との共同研究として実施されました。